この記事はおよそ 6分59秒で読めます。
米国債とは、アメリカ政府が発行する債券のことです。世界で最も安全な資産とされており、多くの国や投資家が保有しています。しかし、2023年8月1日、大手格付け会社のフィッチ・レーティングスが米国債の格付けを最高位の「AAA」から一段階下の「AA+」に引き下げました。
これは2011年に続いて2例目の格下げで、米国債への信頼を揺るがす動きです。この記事では、フィッチが米国債を格下げした理由と、日本に及ぼす影響について解説します。
目次
1. 米国債の格付けが引き下げられた理由
米国債の格付けをフィッチが引き下げた理由は、主に2つあります。
1-1. 債務上限問題
米国には、政府が発行できる債務(借金)の上限額が法律で定められています。これを債務上限と呼びます。しかし、政府の歳出が歳入を上回る赤字財政が続いており。そのため、債務上限に達する恐れがあります。この場合、政府は新たな借金を発行できなくなり、既存の借金の利払いや公務員の給与支払いなどに支障が出る可能性があります。これを債務不履行と呼びます。
債務上限問題は、過去にも何度も発生しています。毎回政府与党と野党が協議して妥協し、債務上限を引き上げることで解決してきました。しかし、2023年6月初旬に迫った債務上限問題では、バイデン政権と共和党が対立し、交渉が難航しました。一時は史上初の債務不履行が現実味を帯びました。最終的には7月末に債務上限の引き上げ法案が成立し、危機は回避されました。
しかし、フィッチは、この債務上限問題が「米国のガバナンス(統治)の低下を示す」と判断しました。また、「何度も繰り返される債務上限問題は、米国債の信用力を損なう」と指摘しました。そのため、米国債の格付けを引き下げることにしました。
1-2. 財政状況の悪化
もう一つの理由は、米国の財政状況の悪化です。フィッチは、「米国の格下げは今後3年で予想される財政状況の悪化、高水準で拡大しつつある一般政府債務負担、過去20年間の他のAAおよびAAA格付け諸国・地域と比較したガバナンス(統治)の低下を反映している」と述べました。
フィッチによると、米国の一般政府債務負担(GDPに対する債務比率)は2023年末には130%に達する見込みと報告しております。これはAAA格付け諸国・地域の平均(約50%)やAA格付け諸国・地域の平均(約60%)を大きく上回ります。また、バイデン政権が推進するインフラ投資や社会保障拡充などの大規模な財政支出計画も、財政赤字や債務増加につながると懸念されます。
フィッチは、米国が財政再建に取り組むことで、格付けを再び引き上げる可能性もあるとしています。そのためには「政治的な意思決定と協調」が必要だと強調しています。
2. 米国債の格付け引き下げが日本に及ぼす影響
米国債の格付け引き下げが日本に及ぼす影響は、主に以下の3つです。
2-1. 日本の外貨準備資産の価値低下
日本は世界最大の米国債保有国であり、2023年6月末時点で約1兆3000億ドル(約140兆円)相当の米国債を保有しています。これらの米国債は、日本の外貨準備資産(外貨建て資産)の約60%を占めています。外貨準備資産は、通貨安防衛や国際的な信用力確保などに重要な役割を果たしています。
しかし、米国債の格付け引き下げにより、米国債の価値や信用力が低下する可能性があります。その場合、日本が保有する米国債も価値や信用力が低下し、外貨準備資産の質が悪化する恐れがあります。また、米国債の利回り(債券の収益率)が上昇すると、日本が保有する米国債の価格は下落します。これは、債券の価格と利回りは反比例するからです。したがって、日本は米国債の価値低下による損失を被る可能性があります。
2-2. 日本の金融市場への影響
米国債の格付け引き下げは、日本の金融市場にも影響を与える可能性があります。米国債は世界の金融市場で基準となる資産であり、米国債の価格や利回りの変動は、他の資産や通貨にも波及します。例えば、米国債の利回りが上昇すると、投資家はより高い収益を求めて米国債に資金を移動させるかもしれません。その結果、他の国の債券や株式などの資産から資金が流出。価格や利回りに圧力がかかるかもしれません。
また、米国債の利回りが上昇すると、ドルに対する需要も高まるかもしれません。その場合、ドル高円安になる可能性があります。ドル高円安は、日本の輸出企業にとっては不利になりますが、輸入企業や海外投資家にとっては有利になります。したがって、日本の金融市場では、米国債の格付け引き下げに対する反応やリスク回避姿勢によって、様々な影響が生じる可能性があります。
2-3. 日本の経済成長への影響
米国債の格付け引き下げは、日本の経済成長にも影響を与える可能性があります。米国は日本の最大の貿易相手国であり、世界最大の経済大国です。そのため、米国経済の動向は日本経済に大きな影響を及ぼします。例えば、米国経済が減速すると、日本の輸出や設備投資などに悪影響を与えるかもしれません。また、米国経済がインフレ圧力に直面すると、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策を引き締める可能性があります。その場合、世界的な金融環境が悪化し、日本経済にもネガティブな影響を与えるかもしれません。
一方で、米国債の格付け引き下げは、日本経済にとってプラス面もあるかもしれません。例えば、米国債への信頼が低下することで、日本政府や日銀(日本銀行)が発行する日本円建て債券への需要が高まるかもしれません。その場合、日本政府や日銀はより低いコストで資金調達ができるかもしれません。また、日本円建て債券への需要が高まることで、円高になる可能性があります。円高は、日本の輸入や海外旅行などにとっては有利になります。したがって、日本経済にとっては、米国債の格付け引き下げによる影響は、プラス面とマイナス面が混在する可能性があります。
まとめ
米国債の格付け引き下げは、世界経済に大きな衝撃を与える可能性があります。しかし、それは必ずしも悪いことだけではありません。日本は、米国債の格付け引き下げに対応するために、自らの経済力や金融安定性を高めることができるかもしれません。また、米国債以外の資産や通貨にも目を向けることで、より多様な投資戦略を考えることができるかもしれません。米国債の格付け引き下げは、日本にとって新たなチャンスをもたらす可能性もあるのです。