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退職金は、長年勤めた会社からの感謝の気持ちや老後の生活資金など・・・。多くのサラリーマンにとって大切なものです。しかし、岸田政権が退職金への課税の軽減措置を見直す方針を示したと報じられました。これは、どういう意味なのでしょうか?そして、私たちには退職金への課税でどんな影響があるのでしょうか?
目次
1.退職金の課税制度とは
退職金にかかる税金については、現在以下の3つの優遇措置がとられています。
- 分離課税:ほかの所得とは別に税額を計算することで、累進課税を緩和する。
- 退職所得控除:退職金から一定額を控除することで、課税所得を減らす。
- 2分の1軽課:退職金から退職所得控除額を引いた半分だけに税率を適用。それによって、実質的な税率を半分にする。
これらの優遇措置のおかげで、多くの人は退職金を無税または低税で受け取ることができます。特に、退職所得控除額は、勤続年数が20年以下の場合は40万円×勤続年数(1年未満切り上げ)。20年超の場合は70万円×勤続年数(20年分は40万円)で求められます。例えば、同じ会社に30年勤めた場合は、1600万円(40万円×20年+70万円×10年)が控除されます。
2.退職金への課税から考える岸田政権が目指す労働市場改革
退職金への課税見直しを岸田政権が検討している背景には、労働市場改革の推進があります。政府は、生産性や付加価値の高い分野への労働移動を促しています。なぜなら、終身雇用や年功序列などの日本型の雇用慣行を改める必要があると考えているためです。その一環として、退職金への課税の軽減措置を見直す。勤続年数による優遇をなくし、転職の障壁を低くする。などを目指しています。
また、政府は、退職金への課税見直しと同時に、失業給付制度やリスキリング支援などの転職支援策も強化することを検討しています。これらの施策は、新しい資本主義実現会議(議長・岸田文雄首相)が6月までに指針として示す予定です。
3.退職金への課税に対する評価は分かれる
退職金への課税見直し案に対する評価は、専門家や一般の人々の間で分かれています。賛成派は、以下のようなメリットを挙げています。
3-1 退職金への課税に対するメリット
- 賃上げにつながる:
退職金は後払い賃金とみなせます。そのため、課税を強化すれば、企業は税金よりも労働者の手取りを増やそうとする。給料や賞与などに反映される可能性が高まる。 - 労働流動性を高める:
退職金は勤続年数に応じて増えます。そのため、転職をためらう要因になっている。課税見直しにより、勤続年数に関係なく退職金が受け取れれば、自発的な転職がしやすくなる。 - 生産性を向上させる:
退職金制度は生産性の低い人たちが企業に張り付くことを助長している。課税見直しにより、企業は生産性の高い人材を採用しやすくなる。それだけでなく、若い人たちの賃金も上がる可能性がある。
3-2 退職金への課税に対するデメリット
一方、反対派は、以下のようなデメリットを指摘しています。
- 庶民への増税:
退職金は老後の生活資金として重要な役割を果たしている。課税見直しにより、退職金が減れば、高齢者の生活が苦しくなる可能性がある。特に、勤続年数が長い人ほど不利になる。 - 不公正税制を放置する:
退職金への課税見直しでは、2分の1軽課という優遇措置が議論されていない。この措置は、高額の退職金を得る天下り官僚や外資系金融機関のインベストメントバンカーなどに有利に働いている。この不公正税制を放置することは許されない。 - 労働移動と関係ない:
退職金への課税見直しは、労働移動とほとんど関係がない。実際に転職するかどうかは、求人情報やキャリアコンサルタントなどのサービスや制度が整っているかどうかによって決まる。増税のための口実に過ぎない。
まとめ
退職金への課税の軽減措置を岸田政権が見直す方針を示しました。今回は、その狙いと影響について解説しました。退職金への課税見直しは、労働市場改革の一環として、賃上げや労働流動性の促進、生産性の向上を目指しています。しかし、反対派は、庶民への増税や不公正税制の放置、労働移動との関係性の希薄さなどを指摘しています。退職金への課税見直しは、私たちの将来に大きな影響を与える可能性がある重要な問題です。政府の動向に注目していきましょう。